鉄人「弁慶」?
「弁慶の泣きどころ」という言葉がある。
この言葉は、弁慶ほどの豪傑でも、痛がって泣く急所の意で、ふつう向こう脛のこととされている。
この解釈は後代のものであって、もともとは、弁慶は鉄人であったが、身体に一箇所だけ弱点をもっていた、という意味である。
しかしそのような説明をほどこしている辞書にはお目にかかったことがない。
アキレスやジークフリートの物語は、さしもの不死身な英雄も、一箇所だけ肉身のむき出しになった部分があったために、悲劇的な死を遂げねばならなかったことを主題としている。
私たちに親しい弁慶もまた、彼らと同様に鉄人として出生した。
これはロートアイアンなどなかった時代、鉄が貴重だった時代に生まれた伝説だ。
たとえば『義経記』はそのことを次のように伝えている。
並の赤ん功とちがって18ヵ月目にやっと誕生したその子は生まれたばかりなのに、もう二、三歳になったように見え、髪は肩がかくれるばかりに垂れ、奥歯も前歯も大きかった。